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鹿児島地方裁判所 昭和54年(ワ)376号 判決

原告

元山義和

ほか一名

被告

鳥部祐二

ほか二名

主文

1  被告栫勝行、同栫和孝は各自、

(一)  原告元山義和に対し、金二〇六万六四六八円及び内金一八七万六四六八円に対する、

(二)  原告元山都志子に対し、金二八四万三四八〇円及び内金二七四万三四八〇円に対する、

それぞれ昭和五三年四月三〇日より各完済に至るまで年五分の割合による各金員を支払え。

2  原告両名の被告栫勝行、同栫和孝に対するその余の各請求、及び被告鳥部祐二に対する各請求を棄却する。

3  訴訟費用は、

(一)  原告元山義和と被告栫勝行、同栫和孝との間においては、これを一〇分し、その九を同原告の、その余を右被告両名の、

(二)  原告元山都志子と被告栫勝行、同栫和孝との間においては右被告両名の、

(三)  原告両名と被告鳥部祐二との間においては右原告両名の、各負担とする。

4  本判決は主文1項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める判決

一  原告ら

1  被告らは各自、

(一) 原告元山義和(以下「義和」という)に対し、金一六九八万一四八九円及び内金一六六八万一四八九円に対する、

(二) 原告元山都志子(以下「都志子」という)に対し、金二八八万二九七九円及び内金二七八万二九七九円に対する、それぞれ昭和五三年四月三〇日より各完済に至るまで年五分の割合による各金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行の宣言

二  被告ら(共通)

1  原告らの各請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  事故の発生

被告栫勝行(以下「勝行」という)は昭和五三年四月二九日午後四時三〇分ころ、鹿児島市西伊敷七丁目二三番八号先路上において、被告栫和孝(以下「和孝」という)所有の普通乗用車(以下「加害車」という)を運転して時速七〇キロメートル以上で進行中、中央分離帯を越えて反対車線に飛び出し、折から対向してきた原告義和が運転し、原告都志子らが同乗していた普通乗用車(以下「被害車」という)に正面衝突し、原告義和に入院加療一八三日間を要する右大腿骨骨折、原告都志子に入院加療四四日間を要する右胸部打撲傷、右第五・第六肋骨骨折、右胸部皮下気腫、前頭部打撲傷、顔面打撲挫創、下門歯及び下顎歯肉部挫創、両側肘部及び左拇指打撲傷、左下腿打撲擦過傷の各傷害を負わせた。

2  責任原因

(一) 被告勝行

本件事故現場の道路には中央分離帯があり、かつ鹿児島県公安委員会が指定速度を毎時四〇キロメートルと定めているのであるから、自動車運転者としては中央分離帯を越えないようにし、右指定速度を遵守すべき注意義務があるのに被告勝行はこれを怠り、右指定速度を超える毎時七〇キロメートル以上の高速で走行しながら、急にハンドルを左に転把したため自車の安定を失わせ、対向車線に出た過失により本件事故を惹起した。

(二) 被告和孝

被告和孝は本件加害車の所有者であり、これを運行の用に供していた。

(三) 被告鳥部祐二(以下「鳥部」という)

被告鳥部は泊石油店の名称でガソリンスタンドを経営し、被告勝行を使用していた。被告勝行は勤務時間中に右スタンドに立寄つた加害車を運転し、同スタンドからわずかの距離の所で本件事故を惹起した。従つて、被告勝行は外形上、被告鳥部の業務の執行につき右事故を惹起したものである。

3  損害

本件事故により、原告義和は別紙損害一覧表(一)のとおり合計一六九八万一四八九円相当、原告都志子は同表(二)のとおり二八八万二九八〇円相当の損害をそれぞれ蒙つた。

4  まとめ

よつて被告勝行に対しては不法行為責任、被告和孝に対しては運行供用者責任、被告鳥部に対しては使用者責任に基づき、原告義和は一六九八万一四八九円及び内金一六六八万一四八九円に対する、原告都志子は二八八万二九七九円(前記損害額より一円を差引く)及び内金二七八万二九七九円に対する、いずれも事故発生日の翌日である昭和五三年四月三〇日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の各自支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  被告勝行

請求原因1、2(一)の各事実は認め、同3の事実は不知。

2  被告和孝

請求原因1のうち、原告ら主張の日時、場所において被告和孝所有の加害車と被害車との衝突事故があつたことは認め、その余の事実は不知。同2(二)のうち、被告和孝が加害車の所有者であることは認め、その余は争う。同3の事実は不知。

3  被告鳥部

請求原因1の事実は不知。同2(三)のうち、前段の事実は認め、その余の事実は否認する。同3の事実は不知。

三  抗弁(被告和孝のみ)

被告和孝は昭和五三年四月二八日、徳重初雄(以下「徳重」という)に対し加害車にカーステレオを泊石油スタンドで、取付けて貰うよう依頼したが、その際、居合わせた被告勝行が既に免許取消処分を受けていたため、加害車を同被告に使用させないよう徳重に念を押した。翌二九日、加害車を借りて泊石油スタンドに赴いた徳重の制止を聞かず、被告勝行が強引に加害車を運転して本件事故を惹起したのであり、事故当時、加害車の運行支配、運行利益は被告和孝から相被告勝行または同鳥部に移転していたものである。

四  抗弁に対する認否

抗弁のうち、被告和孝が昭和五三年四月二八日、徳重に対し加害車にカーステレオを泊石油スタンドで取付けて貰うよう依頼したこと、被告勝行が既に免許取消処分を受けていたこと、被告勝行が加害車を運転して本件事故を惹起したことは認め、その余の事実は否認する。加害車の運行支配、運行利益は未だ被告和孝に残存していたものである。

第三証拠〔略〕

理由

一  事故の発生

請求原因1の事実は原告らと被告勝行との間で争いがなく、原告らとその余の被告らとの間ではいずれも成立に争いのない甲第一号証ないし第三号証、第一九号証ないし第二一号証、第二三、二四号証、第二六、二七号証、被告勝行、同和孝、原告両名各本人尋問の結果を総合してこれを認めることができる(右のうち原告ら主張の日時、場所において被告和孝所有の加害車と被害車との衝突事故があつたことは原告らと被告和孝の間で争いがない)。

二  被告勝行の責任の存否

請求原因2(一)の事実は原告らと被告勝行との間で争いがない。

三  被告和孝の責任の存否

請求原因2(二)のうち、被告和孝が本件加害車の所有者であること、並びに抗弁のうち、被告和孝が昭和五三年四月二八日、徳重に対し加害車にカーステレオを泊石油スタンドで取付けて貰うよう依頼したこと、被告勝行が既に免許取消処分を受けていたこと、被告勝行が加害車を運転して本件事故を惹起したことはいずれも原告らと被告和孝との間で争いがない。

成立に争いのない甲第二五号証、第三五号証、前記甲第二六号証(ただし後記一部採用しない部分を除く)、証人徳重初雄の証言、被告勝行、同和孝、同鳥部各本人尋問の結果によれば、以下の事実が認められ、これに反する甲第二六号証の記載の一部は採用することができない。

1  被告勝行と同和孝とは小、中学校時代以来の友人であり、被告勝行と徳重とは中学、高校時代以来の友人であつた。被告和孝は同勝行の紹介により徳重と知り合うに至つた。右三名らは遊び仲間として近年、一か月に三回程度一緒にドライブに出掛けていた。被告勝行は昭和五二年七月一七日、交通事故を起こし、その結果、同年九月二〇日、運転免許が取消された。しかし右免許取消後も被告勝行と同和孝らとのドライブは続き、無免許の被告勝行が同和孝の乗用車の運転を代行したり、時には短距離を単独で運転したりすることがあつた。

2  被告和孝は昭和五三年四月二八日、新たに買入れたマツダサバンナRX7(本件加害車)の引渡を喫茶店ルーブルで受けた。その場には被告勝行、徳重らが居合わせた。被告和孝はかねてより気に入つたカーステレオが被告勝行の勤務先である泊石油スタンドにあつたので、同所でのカーステレオの取付を徳重に依頼した(右依頼事実は前記のとおり争いがない)。被告和孝が同勝行に右の取付を依頼しなかつたのは、同被告が日頃ハイスピードの運転をし、事故を起こす可能性があるのを憂慮したためであつて、被告和孝は同勝行の目前で徳重に対し、「勝行には乗せるなよ」と注意した。

3  翌二九日午前中にカーステレオの取付作業が終了した。徳重はいとこ(徳重和秀)を乗せ、吉野公園にドライブし、天文館を経、午後四時ころ西鹿児島駅近くの水道工事現場で働く被告和孝のもとに立寄つた。被告和孝は徳重に午後五時ころ泊石油スタンドに行くので同所まで本件加害車を回送するよう依頼した。徳重は直ちに本件加害車を泊石油スタンド裏の道路脇まで回送し、同所に駐車した。

4  おりから同所には被告勝行らの遊び友達である森永某、溜某が来あわせており、本件加害車を見て徳重に試乗させるよう申込み、徳重が承諾したので、右森永、溜の順に短距離の試乗がなされた。その次に被告勝行が加害車の運転席に座り込んだのを見て、徳重は前日、被告和孝より同勝行には運転させないよう注意されていたためエンジンキーに手を伸ばしたが、さえ切られ、同被告が遊び仲間であるため断り切れず、「余り飛ばさんように」といつて試乗を承諾した。

被告勝行は本件加害車を試運転中、前認定のとおり、本件事故を右泊石油スタンドから数百メートル先の路上で惹起した(加害車による事故の発生については争いがない)。

右の事実関係によれば、被告勝行は同和孝所有の本件加害車を同被告から借りていた徳重より試乗目的で短時間転借したものであり、たとえ右転貸借が被告和孝の意思に反するものであつたとしても、被告勝行と同和孝との交遊関係からして、本件加害車の運行支配、運行利益を排他的に奪つたものとは到底認められず、抗弁は理由がない。そうとすれば、被告和孝は本件加害車の運行供用者として、その運行によつて生じた本件事故による損害につき賠償の責を負うものというべきである。

四  被告鳥部の責任の存否

請求原因2(三)のうち、被告鳥部が泊石油店の名称でガソリンスタンドを経営し、被告勝行を使用していたことは、原告らと被告鳥部との間で争いがない。

証人徳重初雄の証言、被告勝行、同鳥部各本人尋問の結果並びに前記の認定事実によれば、被告勝行は泊石油スタンドで車の整備、ガソリン等の販売業務に従事していたこと、同被告がスタンド内で車を移動させることはあつたが、無免許であるため、修理した車等をスタンド外に搬送することはなかつたこと、右スタンドにおける本件加害車へのカーステレオの取付作業は二九日午前中で終了し、被告鳥部は午後四時過ぎに徳重が右スタンドに再び加害車で来たのを知つたが、その駐車位置が同スタンドの建物のかげにあつたため、被告勝行が本件加害車に乗り込み、職場を離れ、数百メートル先の路上で事故を惹起したのには直ちに気付かなかつたこと、以上の事実が認められる。

右の事実関係によれば、本件事故は被告勝行が無断で職場を離脱した際に惹起されたもので、被告鳥部の事業または被告勝行の職務と関係のあるものとは到底認め難い。従つて被告鳥部は本件事故について使用者責任を負うものではない。

五  原告義和の損害等

1  治療費 六六〇〇円

原告義和本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したと認められる甲第四号証によれば、原告義和が本件事故による傷害の治療費六六〇〇円を有馬純小児科整形外科病院(以下「有馬病院」という)に支払い、これと同額の損害を蒙つたことが認められる。

2  付添看護費 一六万八〇〇〇円

前記甲第二号証及び原告義和本人尋問の結果によれば、原告義和が昭和五三年四月二九日に有馬病院に入院して以来、同年七月二一日までの八四日間、同原告の母である元山ミキが付添看護をしたことが認められる。右付添看護費は一日当たり二〇〇〇円、合計一六万八〇〇〇円をもつて同原告の損害と認めるのを相当とする。

3  入院雑費 九万一五〇〇円

前認定のとおり、原告義和の入院期間は一八三日間に及び、その間の入院雑費は一日当たり五〇〇円、合計九万一五〇〇円をもつて同原告の損害と認めるのを相当とする。

4  休業・昇給延伸による逸失利益 四五万八九六一円

成立に争いのない甲第四二号証の一ないし七、九ないし一六、原告義和本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すれば、原告義和が鹿児島県庁に勤務する地方公務員であり、本件事故当時の給与は行政職給与表五等級四号俸(給与一一万五七〇〇円、扶養手当一万〇三〇〇円で、毎年一〇月に一号俸宛定期昇給する筈であつたこと、しかるに同原告が本件事故により昭和五三年一〇月三一日まで休職したことから、同年九月ないし一一月分の給与及び扶養手当が八割しか支給されず、同年一二月のボーナス(期末、勤勉手当)も別紙計算表のとおり大幅にカツトされ、更に同年一〇月に五等級五号俸(給与一二万〇八〇〇円、扶養手当一万〇三〇〇円)に昇給する予定が六か月分延伸され、昭和五四年四月に昇給したこと、同原告の六か月間の昇給延伸は昭和五八年三月まで継続する見込みであること、以上の事実が認められる。

同原告は昭和五四年一二月までの逸失利益については全額の損害賠償を求め、昭和五五年一月から昭和五八年三月までの逸失利益については昭和五四年を基準に新ホフマン方式による現価を算出し、右金額の損害賠償を求め、併せてこれらに対する本件事故日の翌日以降の遅延損害金の支払を求めているのであるが、逸失利益の損害賠償請求権は事故当日に発生し、同日を基準に年毎に逸失利益をホフマン方式によつてその現価を算出し、右金額に請求の範囲内である事故発生の翌日(昭和五三年四月三〇日)から遅延損害金を付するのが相当であると解する。

そこで前記認定事実により同原告の逸失利益の現価を求めると次のようになる。

(一)  昭和五三年九月ないし昭和五四年三月分

別紙計算表の差額欄中の該当年月分の和は三〇万七六一八円である。第一年度のホフマン係数を〇・九五二四とすれば、現価は(a)二九万二九七五円となる。

(二)  昭和五四年一〇月ないし昭和五八年三月分

一年間の逸失利益額である別紙計算表の〈1〉ないし〈6〉の和四万八六四八円に第二年度ないし第五年度のホフマン係数をそれぞれ、〇・九〇九一、〇・八六九六、〇・八三三三、〇・八〇〇〇とすれば、各年度の逸失利益の現価はそれぞれ、(b)四万四二二六円、(c)四万二三〇四円、(d)四万〇五三八円、(e)三万八九一八円となる。

(三)  右逸失利益現価((a)ないし(e))の総和は四五万八九六一円となる。

5  後遺障害による逸失利益 一三九万六八九三円

成立に争いのない甲第六号証及び原告義和の本人尋問の結果によれば、原告義和が本件事故により右下肢五・五センチメートル短縮及び右膝関節の機能障害という後遺症を受け、走つたり、あぐらをかくことができないこと、しかし同原告は事務職員であり、昭和五八年四月以降(昭和五八年三月までの逸失利益については前記4で認定済みであり、それまでの労働能力喪失による損害賠償請求は重複している面がある)、退職に至るまでは給与上、何らの不利益を蒙らないことが認められる(右不利益を蒙らないことについて同原告に一層の努力が必要であることは後記9の慰藉料額の算定において考慮される)。

右の事実関係によれば、同原告は地方公務員を退職すると推認される六〇歳から労働可能な六七歳までの間、毎年、賃金センサス上、六〇歳以上の男子労働者の得る年間給与額一八九万三五〇〇円の三割(同原告は事務系の仕事に従事するものと推認され、労働能力喪失による逸失利益の率を三割と認める)相当の五六万八〇五〇円の逸失利益の損害を蒙つたものということができる。

弁論の全趣旨によれば、同原告は昭和二六年生まれであることが認められる。そうすれば、同原告は昭和八六年に六〇歳、昭和九三年に六七歳に達することとなる。本件事故のあつた昭和五三年を第一年度とし、第三四年度ないし第四〇年度(七年間)のホフマン係数をそれぞれ、〇・三七〇四、〇・三六三六、〇・三五七一、〇・三五〇九、〇・三四四八、〇・三三九〇、〇・三三三三とすれば、各年度の逸失利益の現価は、(a)二一万〇四〇六円、(b)二〇万六五四三円、(c)二〇万二八五一円、(d)一九万九三二九円、(e)一九万五八六四円、(f)一九万二五六九円、(g)一八万九三三一円となり、その総和は一三九万六八九三円である。

6  装具料 二六万八一九九円

成立に争いのない甲第七号証、原告義和本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したと認められる甲第八号証によれば、同原告は右下肢五・五センチメートルを短縮する後遺障害のため、単価二万三四〇〇円の両靴型装具を二年毎に一個必要とすることが認められる。事故当時、同原告は二七歳であり、七一歳までの四四年間の損害現価は、同原告主張どおりの新ホフマン方式による計算に基づき、二六万八一九九円である。

7  診断書作成料 一万〇〇〇〇円

原告義和本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したと認められる甲第九号証によれば、原告義和は本件事故に伴う傷害についての診断書代として有馬病院に一万円を支払い、これと同額の損害を蒙つたことが認められる。

8  胎児の葬式費用 六七〇〇円

成立に争いのない甲第一〇、一一号証、原告義和本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したと認められる甲第一二、一三号証、原告都志子本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すれば、本件事故当時、原告義和の妻同都志子が妊娠三か月であつたところ、本件事故による傷害治療のために抗生物質、精神安定剤等が投与され、そのため医師から胎児への悪影響を理由に中絶手術が勧められ、昭和五三年六月二〇日、右手術がなされるに至つたこと、原告義和が胎児の火葬、位牌等の葬式費用に合計六七〇〇円を支払い、これと同額の損害を蒙つたことが認められる。

9  慰藉料 六〇〇万〇〇〇〇円

原告義和本人尋問の結果及び前記認定事実によれば、原告義和は本件事故により一八三日間の入院加療を受け、前記の後遺症があつて、今後の生活全般に支障のあること(特に従前と同様の作業成績を挙げるには一層の努力を要すると推認される)、第二子を得べきところ、妻が中絶手術を受けざるを得なかつたことが認められ、同原告の精神的苦痛に対する慰藉料は六〇〇万円をもつて相当とする。

10  弁護士費用 一九万〇〇〇〇円

原告義和が本件訴訟の追行を弁護士安田雄一に委任したことは当裁判所に明らかである。交通事故との間に相当因果関係の認められる弁護士費用の金額は、それ以外の認容される賠償額を基準とし、その一割程度を相当とする。そうすると前記1ないし9のとおり認められた損害額の合計は八四〇万六八五三円であり、自賠責保険より六五三万〇三八五円の支払があつたことは同原告の自陳するところであるから、弁護士費用以外の認容額は差引一八七万六四六八円である。従つて、本件事故との間に相当因果関係の認められる弁護士費用は一九万円をもつて相当とする。

以上のとおりであつて、原告義和の損害賠償債権額は二〇六万六四六八円と算出される。

六  原告都志子の損害等

1  治療費 一一〇万一七二〇円

成立に争いのない甲第一四号証、原告都志子本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したと認められる甲第一五号証によれば、原告が本件事故による傷害の治療費として敬天会廣瀬病院(以下「廣瀬病院」という)に八一万三七二〇円(後記5の診断書等の代金を控除する)の債務を負担し、飯野歯科医院に二八万八〇〇〇円を支払い、合計一一〇万一七二〇円の損害を蒙つたことが認められる。

2  付添看護費 八万〇〇〇〇円

前記甲第三号証及び原告都志子本人尋問の結果によれば、原告都志子が昭和五三年四月二九日に廣瀬病院に入院して以来、同年六月七日までの四〇日間、同原告の母である松崎ハツ子が付添看護をしたことが認められる。右付添看護費は一日当たり二〇〇〇円、合計八万円をもつて同原告の損害と認めるのを相当とする。

3  入院雑費 二万二〇〇〇円

前認定のとおり、原告都志子の入院期間は四四日間に及び、その間の入院雑費は一日当たり五〇〇円、合計二万二〇〇〇円をもつて同原告の損害と認めるのを相当とする。

4  休業損害 一三万三七六〇円

原告都志子本人尋問の結果、前記認定事実並びに弁論の全趣旨によれば、原告都志子は昭和二五年生まれの主婦であつて、前記入院期間中の四四日間は主婦として稼働できなかつたことが認められる。二五歳ないし二九歳の女子労働者の月間給与額は賃金センサス上、九万一二〇〇円であるから、同原告の逸失利益額は、同原告の計算どおり、一三万三七六〇円と認められる。

5  診断書等の代金 六〇〇〇円

前記甲第一四号証、原告都志子本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したと認められる甲第一六号証によれば原告都志子は本件事故に伴う傷害についての診断書料として三〇〇〇円(支払済み)、診療報酬明細書代として三〇〇〇円の債務を廣瀬病院に対して負い、合計六〇〇〇円の損害を蒙つたことが認められる。

6  慰藉料 二四〇万〇〇〇〇円

原告都志子本人尋問の結果及び前記認定事実によれば、原告都志子は本件事故により四四日の間入院加療を受け、前記のとおり、第二子を得べきところ、医師の勧告により妊娠中絶手術を受けざるを得なかつたことが認められ、同原告の精神的苦痛に対する慰藉料は二四〇万円をもつて相当とする。

7  弁護士費用 一〇万〇〇〇〇円

原告都志子が本件訴訟の追行を弁護士安田雄一に委任したことは当裁判所に明らかである。前記1ないし6のとおり認められた損害額の合計は三七四万三四八〇円であり、自賠責保険より一〇〇万円の支払があつたことは同原告の自陳するところであるから、弁護士費用以外の認容額は差引二七四万三四八〇円である。従つて、本件事故との間に相当因果関係の認められる弁護士費用は少なくとも同原告の請求額一〇万円を下回らないと認められる。

以上のとおりであつて、原告都志子の損害賠償債権額は二八四万三四八〇円と算出される。

七  結論

よつて原告らの請求は、被告勝行、同和孝に対し、原告義和が二〇六万六四六八円及びこれより弁護士費用一九万円を控除した一八七万六四六八円に対する、原告都志子が二八四万三四八〇円及びこれより弁護士費用一〇万円を控除した二七四万三四八〇円に対する、それぞれ事故発生日の翌日である昭和五三年四月三〇日から各完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の各自支払を求める限度で正当であり、その余の各部分及び被告鳥部に対する各請求は理由がないので、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条、仮執行宣言につき同法一九六条を適用のうえ、主文のとおり判決する。

(裁判官 太田幸夫)

損害一覧表 (一)

一 原告義和の損害 合計二三五一万一八七四円

1 治療費(有馬病院) 六六〇〇円

2 付添看護費 一六万八〇〇〇円

同原告の入院期間中、同原告の家族が八四日間付添看護したが、一日当たりの看護費は二〇〇〇円が相当である。

3 入院雑費 九万一五〇〇円

同原告の一八三日間に及ぶ入院期間中、同原告は一日当たり五〇〇円の雑費を支出した。

4 休業・昇給延伸による逸失利益

(一) 既往の逸失利益 三三万六七六八円

同原告は鹿児島県庁に勤務する地方公務員であり、本件事故当時の給与は行政職給与表五等級四号俸(給与一一万五七〇〇円、扶養手当一万〇三〇〇円)であり、毎年一〇月に一号俸宛定期昇給する筈であつた。

しかるに同原告が本件事故により昭和五三年一〇月三一日まで休職したことから、同年九月ないし一一月分の給与及び扶養手当が八割しか支給されず、同年一二月のボーナス(期末、勤勉手当)も別紙計算表のとおり大幅にカツトされ、更に同年一〇月に五等給五号俸に昇給する予定が六か月延伸され、昭和五四年四月に昇給した。

従つて昭和五三年九月から昭和五四年一二月までの同原告の逸失利益は、別紙計算表のとおり、三三万六七六八円となる。

(二) 将来の逸失利益 一四万九一〇七円

同原告の六か月間の昇給延伸は昭和五八年三月まで継続する見込みである。これによる一年間の逸失利益額は、別紙計算表の〈1〉ないし〈6〉の和である四万八六四八円(ただし昭和五八年は右〈1〉ないし〈3〉の和である一万九四九八円)であるから、右四年間の逸失利益の総額の現価は次のとおり新ホフマン方式により一四万九一〇七円となる。

〈省略〉

5 後遺障害による逸失利益 一五〇〇万〇〇〇〇円

同原告は本件事故により右下肢五・五センチメートル短縮(後遺障害等級八級)及び右膝関節の機能障害(同一二級)の後遺障害(合併七級)を受け、労働能力を五六パーセント喪失した。同原告の年収は一九七万八三三四円であり、二七歳から六七歳までの四〇年間は完全に稼働し得た筈であるから、次のとおりホフマン係数を二一・六四二として、現価二三九七万六四五七円相当の利益を逸失した。同原告はそのうち一五〇〇万円の賠償を求める。

1,978,334×0.56×21.642=23,976,457

6 装具料 二六万八一九九円

同原告は右下肢五・五センチメートルを短縮する後遺障害のため、単価二万三四〇〇円の両靴型装具を二年毎に一個必要とすることとなつた。二七歳から七一歳までの四四年間の損害現価は、ホフマン係数を二二・九二三として次のとおり二六万八一九九円となる。

23,400×0.5×22.923=268,199

7 診断書作成料 一万〇〇〇〇円

8 胎児の葬式費用 六七〇〇円

本件事故当時、同原告の妻原告都志子は妊娠三か月であつたが、同女は本件事故による傷害の治療のために抗生物質・精神安定剤等の投与を受けざるを得ず、そのため医師から胎児への悪影響を理由に中絶手術を勧められ、昭和五三年六月二〇日右手術を受けるに至つた。原告義和は胎児の火葬、位牌等の葬式費用に合計六七〇〇円を支出した。

9 慰藉料 七一七万五〇〇〇円

同原告は本件事故による一八三日間の入院により九九万五〇〇〇円相当、前記合併七級の後遺障害により四一八万円相当、妻の前記妊娠中絶により二〇〇万円相当(合計七一七万五〇〇〇円相当)の精神的苦痛を蒙つた。

10 弁護士費用 三〇万〇〇〇〇円

同原告は本件訴訟の追行を弁護士安田雄一に委任し、その弁護料を三〇万円と合意した。

二 自賠責保険からの支払 六五三万〇三八五円

三 差引請求額 一六九八万一四八九円

損害一覧表 (二)

一 原告都志子の損害 合計三八八万二九八〇円

1 治療費(廣瀬病院・飯野歯科) 一一〇万一七二〇円

2 付添看護費 八万〇〇〇〇円

同原告の入院期間中、同原告の家族が四〇日間付添看護したが、一日当たりの看護費は二〇〇〇円が相当である。

3 入院雑費 二万二〇〇〇円

同原告の四四日間に及ぶ入院期間中、同原告は一日当たり五〇〇円の雑費を支出した。

4 休業損害 一三万三七六〇円

同原告は昭和五三年四月二九日から同年六月一六日までのうち少なくとも四四日間、主婦として稼働することができず、女子の平均収入を賃金センサスにより一か月当たり九万一二〇〇円とすれば、次のとおり一三万三七六〇円の利益を失つた。

91,200×44/30=133,760

5 診断書・診療報酬明細書代金 六〇〇〇円

6 慰藉料 二四三万九五〇〇円

同原告は本件事故による四四日間の入院により四三万九五〇〇円相当、前記(損害一覧表(一)一8)の妊娠中絶手術により二〇〇万円相当(合計二四三万九五〇〇円相当)の精神的損害を蒙つた。

7 弁護士費用 一〇万〇〇〇〇円

同原告は本件訴訟の追行を弁護士安田雄一に委任し、その弁護料を一〇万円と合意した。

二 自賠責保険からの支払 一〇〇万〇〇〇〇円

三 差引請求額 二八八万二九八〇円

計算表

〈省略〉

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